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インドの視点で電子マネーを考える
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インドの視点で電子マネーを考える

大谷和利
2019
02
19

筆者は先日、3度目のインド取材から帰ってきました。2020年代後半には、中間層の購買力が米・中はもちろんEU全体を追い越すとされる同国(ソース:OECD, The Emerging Middle Class in Developing Countries)は、今、急速なデジタル化の真っ只中にいます。その消費の原動力の1つとなっている電子決済サービスのPaytmを紹介し、日本との比較などを通して日本の電子マネーの進化の方向性を考えます。

イノベーティブなインドの最新技術と電子決済

日本では、インドは仏教とヨガとターバンの国と思われているかもしれません。しかし同国で仏教は、キリスト教よりも信者が少ない4番目の宗教であり、苦行者は都市部ではほとんど見かけず、ターバンは少数派のシク教徒しか巻いていないのです。

確かに貧富の差は今も存在し、水道や電気すら整備されていない地域もありますが、古くから受け継がれたインフラがない分、最新技術の普及も速いといえます。たとえば、ここ数年で政府が最も力を入れて整備してきたものが、アドハーと呼ばれるユニバーサルIDです。アドハーは、日本のマイナンバーのようなものですが、指紋や虹彩といった生体情報も含まれ、完全な個人認証に使えます。

インドでは、過去に出生証明書がなく戸籍すら曖昧な人々も数多く存在していました。しかし、アドハーの登場によって、一気に総人口の90%にあたる11億6000万人(2017年7月時点)の身元証明が可能となり、銀行取引や各種のオンラインサービスが利用できるようになったのです。

銀行口座やクレジットカードが一般化したことで、今まで現金を使い、店頭でのみ買い物をしていた人たちもオンラインショッピングが楽しめる状態になり、活況を呈しています。一方で、今まで、いわゆる「タンス預金」で現金を自宅に置いていた人も銀行に預けるようになったため、現金しか受け付けていない個人商店や屋台などでの支払いのために、いちいち現金を引き出す手間などが増えて、かえって不便になった面もありました。

そこで登場したのが、Paytm(ペイティーエム)という電子決済サービスです。ATMにかけたネーミングを持ち、スマートフォンのアプリでQRコードを読み込むだけで支払いが完了します。加えて、このサービスはQRコードによる対面での(もしくは、相手の電話番号を入力しての)個人間送金にも対応しており、瞬く間に普及しました。今では、屋台や三輪タクシーまでもがこれに対応し始めています。

Paytmスキャン


“Paytmでは、対面ならばQRコードのスキャン、遠隔ならば携帯番号の入力で個人間送金ができる”

Paytmが利用できる三輪タクシー


“三輪タクシーに貼られた「Paytm利用可」のサイン。同様のサインは、屋台などでもよく見かけられるようになった”

日本の個人間送金、対面ではQRコード決済が主流

日本にも様々な電子決済サービスが存在していて、執筆時点で個人間送金に対応(もしくは、近々対応予定)のものは、Kyash、LINE Pay、Money Tap、Origami Pay、paymo、PayPay、pring、楽天銀行フェイスブック送金、Yahoo!ウォレットなどがあります。(ただし、paymoは2019年5月にサービス自体が終了予定)。

すでにアメリカでは個人間送金を実現しているApple PayやGoogle Payも当然ながら日本での用途拡張を計画していると考えられ、さらには電子決済サービス大手のPayPalなども対応が噂されています。

ところが、現時点で完全な個人間送金サービスを日本国内で提供するには、資金決済法に基づく「資金移動業者」として認定される必要があり、諸々の規定を満たさねばなりません。これは、海外サービスが国内で個人間送金を実現するのに時間がかかる要因となっています。

また、Apple PayやGoogle PayはNFC(Near field communication、近距離無線通信規格)ベースの非接触方式で決済情報をやり取りし、個人間送金の場合には、対面、遠隔を問わずオンライン(メッセージングなど)で処理する仕組みです。しかし、上記の個人間送金対応の電子決済サービスの場合、対面でのやり取りには店頭での支払いと同じくQRコード決済を用いています。

NFC決済よりQRコード決済が有利な理由

NFCベースの決済とQRコード決済の違いを考えてみると、確かにNFCベースのほうが先進的でセキュア、かつ操作時の手間も最小で済みますが、こうした決済方法に対応したハイエンドのスマートフォンでしか利用できないことが制約として挙げられるでしょう。使える端末数を最大化する上では、カメラ機能さえあれば対応できるQRコード方式のほうが有利なのです。

また、今でもオンラインでクレジットカードを利用することに抵抗があるなど、完全に電子的に行われる処理に馴染めない人もいますが、そのような人たちにとっても、QRコードならば支払うという行為を視覚的に確認できる安心感もあるでしょう。

Paytmは電子決済からEコマースへ。日本の電子マネーの今後は?

実は、インドのPaytmには2017年にソフトバンクも出資しており、そのノウハウを基に、同社とヤフーの合弁会社が日本でPayPayを開始した経緯があります。そして、Paytmはアプリ内にEコマースセクションを持ち、ワンストップで送金から支払い、通販までをカバーしており、電子決済に親しんだ人を、そのままEコマースで囲い込むことに成功しました。

Paytm初期画面+more


“Paytmの大きな特徴の1つが、アプリ内に用意されたEコマースセクション。ここに大きなビジネスチャンスがある”

今後は、日本の電子マネーサービスやアプリも、Eコマースとの連携を強めていくことが予想され、逆に、すでに主要な電子マネーのサポートやチャージタイプのギフト券を提供しているアマゾンなどもさらなる対抗・対応措置を講じてくる可能性があります。その意味で、2019年は電子マネーにとって、店頭支払いと個人間送金に続く、第三の進化が見られる年になりそうです。

筆者プロフィール

大谷和利

テクノロジーライター,原宿AssistOnアドバイザー,自称路上写真家。Macintosh専門誌, デザイン評論誌, 自転車雑誌などの誌上でコンピュータ,カメラ,写真,デザイン,自転車分野の文筆活動を行うかたわら,製品開発のコンサルティングも手がける。<a href="http://www.assiston.co.jp/shopinfo" rel="nofollow" target="_blank">原宿アシストオンのウェブサイト</a>

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