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心に投資する旅(中編)
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心に投資する旅(中編)

大谷和利
2016
05
01

前回に引き続き、テクノロジーライターで、原宿アシストオン取締役の大谷和利さんのコラム「心への投資の旅」の中編です。テクノロジーライターとして、長いキャリアをお持ちですが、中でもAppleに関する書籍、記事に関しては、業界の先駆者でいらっしゃいます。今回は、大谷さんが撮られた、Steve Jobsの秘蔵写真も登場します。

デザイナー 鈴木孝彦さん

旅といえば、忘れた頃に予期せぬタイミングで僕の前に現れるのが、15年来の知人の鈴木孝彦さんというデザイナーです。

ちょうど21世紀になろうとしていた頃、鈴木さんは、コンピュータにアナログ的な操作感をもたらすPowerMateというUSBコントローラーを開発し、それを、当時は何のコネクションも持たなかったアップルに製品化してもらおうとを考えました。この時点で、鈴木さんの発想が、いかに大多数の日本人と違っているかが理解できるでしょう。

PowerMate

MacやPCにUSB接続し、音量その他の機能をコントロール可能なPowerMate。アルミ切削のノブは高級オーディオ機器のように滑らかに回り下に押し込むことで決定ボタン的な役割も付加できる

PowerMateの誕生

どうすれば自分のアイデアをアップルに知ってもらえるか? そんなことを考えていた彼は、ある日、自分がデザインしたアクセサリを、たまたま原宿の取引先に納品に来た際にアシストオンの看板を見かけて、こう思ったそうです。「ここなら何とかしてくれるかもしれない…」。もちろん、アシストオンがどんなショップか一切知らず、ましてアップルの記事を書いている僕が取締役であることなど夢にも思わずにです。

ただ自分の直感を信じてアシストオンのドアを開けた鈴木さんは、応対した社長の大杉に試作品を見せながら熱心に説明しました。すぐに興味を持った大杉から連絡を受けた僕は、ツテを頼ってアップルのデベロッパーリレーションのマネージャに話をつなぎ、「クパチーノに来てくれるなら見てみてもよい」という了解を取り付けます。

すると、鈴木さんは2つ返事でカリフォルニアに飛び、アップルの本社でデモをして、見事に幹部たちの心をつかむことに成功。このフットワークの軽さも、彼ならではといえますが、このクパチーノへの旅は、まさに彼の自分への投資となりました。

この会合で、アップルの担当者は、サードパーティ製品として出すことを提案し、紹介状を書いてくれたのです。そして、いくつかの有力アクセサリメーカーの中から最終的にグリフィン・テクノロジーによって発売されたPowerMateは、世界中で大ヒットしたのでした。

スティーブジョブズとのひと時

その後も僕と鈴木さんとの交流は続きましたが、普段、彼はプロトタイプ作りに便利な工業団地のある長野県に住んでいるため、日本ではなかなか直接会う機会がありません。そのかわり、なぜか海外で遭遇する機会が多かったりします。

アップルがニューヨークのソーホーに直営店を開いたときにも、取材中の僕の前に鈴木さんがひょっこりと顔を出しました。

写真は、オープニングの日にソーホーのアップルストアの視察に来たジョブズに対して、彼の名が刻印された特別バージョンのPowerMateを鈴木さん自ら手渡した際に撮影したものです。ジョブズ自身もPowerMateのことをいたく気に入っていたため、自ら鈴木さんに握手を求め、満面の笑みを浮かべて写真に収まってくれました。

JobsTS

PowerMateのジョブズバージョンを手にする故スティーブ・ジョブズと鈴木孝彦さん。ジョブズのこんな笑顔を、キーノートや広告写真以外で見ることは稀だった

それにしても鈴木さんらしいのは、いつ会えるかもわからないジョブズのために、この特別なPowerMateを常に持ち歩いていたという事実でしょう。

では、ジョブズの動きを予想し、ソーホーストアのオープニングに狙いを定めてニューヨークまで来たのかといえば、さにあらず。そんなことはつゆほども思わずに、久しぶりに現地の友人を訪ねてみると何やら賑やかな店が目に留まり、入ってみただけというのが真相です。まさにセレンディピティ! 驚きを通り越してあきれるほかありません。

実はこのとき、鈴木さんと数分違いでジョブズは取り巻きを連れてストアを離れ、どこかに姿を消してしまっていたのですが、2人で彼を探してソーホーのストリートをさまよったのも良い思い出です。

このときは、結局、数ブロック先のカフェでジョブズを発見したものの、公共の場で声をかけられるのを嫌うことを知っていたので、アップルストアに戻るのを粘り強く待ち、無事に記念すべきシーンが撮れたのでした。まさに鈴木さんの出現と予定になかった追跡劇が、2人の心に忘れられないジョブズとのひと時をもたらしたわけです。

 しかし、旅と僕と鈴木さんとの意表をつく関係は、これで終わりではありませんでした。(後編に続く)

筆者プロフィール

大谷和利

テクノロジーライター,原宿AssistOnアドバイザー,自称路上写真家。Macintosh専門誌, デザイン評論誌, 自転車雑誌などの誌上でコンピュータ,カメラ,写真,デザイン,自転車分野の文筆活動を行うかたわら,製品開発のコンサルティングも手がける。<a href="http://www.assiston.co.jp/shopinfo" rel="nofollow" target="_blank">原宿アシストオンのウェブサイト</a>

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