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ARで拡がるフィンテックと消費者とのコンタクトポイント
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ARで拡がるフィンテックと消費者とのコンタクトポイント

大谷和利
2017
08
22

一般にはモバイルゲームなどを通じて耳にするようになったAR(オーグメンテッド・リアリティ)技術は、実際の風景にコンピュータグラフィックスを合成することで様々な情報をわかりやすく表示し、現実(リアリティ)を拡張(オーグメント)するものです。そのため、日本では「拡張現実」とも呼ばれています。

たとえば、グーグルのストリートビューの画面には移動可能な方向を示すラインや、道路の名前などが描かれ、スワイプや回転などの操作をすると、それに伴ってあたかも風景の一部のように一緒に動きますが、これもARの応用例の1つと考えることができるでしょう。


また、テレビ番組などで、ディスプレイやスマートフォンを内蔵したゴーグルを装着したゲストが、周囲を見回して見える風景に驚いたり楽しんだりするシーンを見たことがあるかもしれません。表示されるイメージがコンピュータグラフィックスのみの場合には、VR(バーチャル・リアリティ=仮想現実)と呼ばれますが、そのようなゴーグルを利用すると、より没入感が強まり、現実と電子的に生成された世界の境界線が曖昧になっていきます。

人間が、自分の置かれている状況を視覚を通じて把握し、次に行うべきアクションを決定しているのであれば、電子的な情報もそこに重ねて同時に見えるようにするのが最も自然ではないか、という考えからARは生まれたのです。

SXSWではコモディティ化したAR

毎年春に米テキサス州オースティンで開かれている世界最大の音楽・映画・インタラクティブエンターテイメントの祭典であるSXSW(サウス・バイ・サウスウェスト)においては、AR技術自体はすでに珍しいものではなくなっていますが、今後はエンターテイメント分野だけでなくビジネスの世界にも応用範囲を広げる動きが強まってきていることを感じました。米フォーチュン誌によって「世界で最もパワフルな女性の1人」に選ばれたジニ・ロメティーCEO自ら視察に訪れたIBMのパビリオンでも、仕事の現場でどのように活用すべきかといった切り口での展示やデモに力を入れていたことが、印象に残っています。そして、フィンテックもARの応用分野として有力視されているのです。

閲覧デバイスの問題を解決するiOS 11

しかし、様々な可能性を秘めながら、ARは実際の社会において、今ひとつ馴染みが薄いところがあります。その大きな理由としては、高度なAR表示が可能なデバイスが限られていることや、AR対応のデータやアプリを作るためのハードルが高いことが挙げられるでしょう。どんな最先端技術も、実際の消費者の手に届きやすく、また、気軽に使える扱いやすさを備えているものでなければ、一部のメディアやマニアからもてはやされるだけに留まり、一般への普及や貢献をすることが難しくなります。

同じことはフィンテックにも言え、もし世の中の電子機器がデスクトップPCやノートPCだけであれば、モバイルバンキングなどもここまで普及せず、口座残高の確認や送金処理は限られた場所で時間を見つけて行う人が大半だったはずです。

iPhone以降のスマートフォンは、消費者がいつでもどこでも最先端の技術に触れることのできる機会(コンタクトポイント)を大幅に増やしましたが、AR技術はフィンテックと消費者とのコンタクトポイントを増やす上でも重要な役割を果たすと期待されています。もちろん、これまでにもAR機能を謳うスマートフォンやゲームマシンは存在したものの、一部メーカーの上位モデルだけが特別なアプリを使ってサポートしていたり、ビジネスとは無縁のエンターテイメント用途が中心であるなど、フィンテックの開発者が対応しにくい状況でした。単にハードウェアの普及台数が多いだけでは不十分で、負荷の高いAR処理を行えるだけのスペックも備えている必要があるのです。

しかし、この秋にアップルがリリースを予定しているiOS 11のARkitによって、状況は一変します。CPUにA9チップを搭載したiOSデバイス、具体的には以下の機種(と今後発売予定のiPhone・iPad)が、すべてシステムレベルでのAR機能を有することになるからです。

iOS 11でARkitがサポートされる機種

iPhone 6s、iPhone 6s Plus、iPhone SE、iPhone 7、iPhone 7 PlusiPad(第5世代)、9.7インチ iPad Pro、10.5インチ iPad Pro、12.9インチ iPad Pro(第1世代/第2世代)

ここには、最新機種だけでなく、すでに普及しているモデルも含まれるため、ほぼ瞬時に数億台規模のARプラットフォームが出現することを意味します。iOSでは全デバイスに占める最新OSの割合が86%(iOS 10の場合)に達し、Androidに比べて12倍以上もの開きがあるので、iOS 11への移行も急速に進むことでしょう。ARkitは、床や机の面やそれらの位置関係、明るさの分布などを把握して目の前の光景の空間モデルを作り出し、そこに整合性のあるコンピュータグラフィックスを重ね合わせたり、リアルな影を生成することが可能です。優れたデザインの北欧家具を扱うイケアでは、これまでも独自のAR機能を搭載したカタログアプリをリリースしていましたが、すでにアップルと協力してARkitを利用した、よりリアリスティックで使いやすいアプリ開発を行うことを表明しました。

たとえば、フィンテック分野も、新聞の経済欄や株価欄にiPhoneを向けるだけで、記事内で採り上げられた企業の財務状況や株価の推移がグラフとなって表示されたり、街で購入して気に入った商品にiPhoneをかざすと、すぐに会社情報が視覚化され、株の購入まで済ませられるなど、AR技術によってより身近で親しみやすい存在になることが予想されます。

世界の中でも特にiPhoneの普及率が高い日本で、ARを使ってどのようにフィンテックが進化していくのか、楽しみに待つことにしましょう。

筆者プロフィール

大谷和利

テクノロジーライター,原宿AssistOnアドバイザー,自称路上写真家。Macintosh専門誌, デザイン評論誌, 自転車雑誌などの誌上でコンピュータ,カメラ,写真,デザイン,自転車分野の文筆活動を行うかたわら,製品開発のコンサルティングも手がける。<a href="http://www.assiston.co.jp/shopinfo" rel="nofollow" target="_blank">原宿アシストオンのウェブサイト</a>

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