企業を経営し、事業を拡大していくためには、その目標を定める必要があります。目標が定まっていなければ社員の意思統一ができませんし、成り行き任せでは、長期的なビジョンを持って会社としてのミッションを達成することが難しいためです。
しかし、目標を定めるだけでは意味がありません。目標に向かって進み、ある程度のところで一度立ち止まり、修正すべき点や問題点を直したら、もう一度目標に向かって進み始めるサイクルが必要となります。
予実管理とは、こうした経営管理の手法のひとつです。本記事では、予実管理を行うための流れや重要なポイント、予実管理に便利なツールなどについて解説します。
予実管理とは?
予実管理とは、企業の予算と実績を比較分析し、予算の達成度や今後の課題を明らかにする経営管理の手法です。これにより、次の予算を立てる際に、より実情に即した数値が導き出せます。
予算には、新事業年度の開始時における企業の目標が反映されています。そのため、予実管理を通じて企業の現状を把握できれば、企業が抱える課題の検出ができるようになるでしょう。
また、予実管理は部門ごとの業績評価にも役立つため、従業員のモチベーションを上げ、目標達成向けた社内の協力体制を強化することにも期待できます。
予実管理の目的・重要性
予実管理の目的とは、自社の状況や進捗具合を客観的な数値で把握することです。したがって、単に予算を立てるだけではなく、途中で売上や経費などの達成率を評価しなければなりません。
もし目標をクリアしているなら、その成功要因を分析することで、今後の事業計画や予算作成に活かせます。反対に目標に達していない場合は、売上の低さやコストの高さなどといった原因を特定できるようになるでしょう。
こうした作業を繰り返し行うことにより、具体的な課題を数値で把握し、解決策を見つけて目標達成に近づけるようになります。
予算管理との違い
「予実管理」と「予算管理」は一文字違いの似た言葉ではありますが、その目的と方法に大きな違いがあります。予算管理は、企業が年度初めに設定する目標であり、売上や経費などの計画を立てることを指します。一方で予実管理は、その予算と実績を比較し、計画がどれだけ達成されているかを評価することです。
予算管理は未来の計画を立てるのが主な目的ですが、予実管理はその計画の達成度を確認し、差異を分析して次のアクションを決定するために行われます。したがって、予算管理と比べると予実管理は定量的な分析が中心となり、より詳細なデータを使って経営判断を行うことが求められます。
前年対比との使い分け方
予実管理と同じように、2つの数字を比較する指標として「前年対比」が使われることがあります。この2つの使い分け方を整理すると、以下のようになります:
前年対比
- 目的:前期と今期の業績を比較し、成長や減少を評価する指標
- 適用:前期と今期の状況が大きく変わらない場合に有効
- 制約:外部環境の変化や一時的な要因によって業績が大きく変わると、
正確な評価が難しくなる - 例:コロナ禍前後の業績比較や、トレンドの影響での売上変動など
予実管理
- 目的:目標と実績の比較を通じて、進捗状況や達成度を評価し、必要な調整を行う
- 適用:環境の変化がある場合や、状況が前年と大きく異なる場合に適している
- 柔軟性:目標設定に基づいて業績を評価するため、外部要因や内部要因の変化に対応しやすい
- 例:売上目標の達成度をもとに、予算の見直しや戦略の修正を行う場合など
使い分けのポイント
- 前年対比: 環境が安定しており、前年のデータが有効であるときに使用する
- 予実管理: 環境変化がある場合や状況が前年と大きく異なるときに、より適切な評価と対応が可能になる
予実管理の流れ
予算管理は多くの場合、以下の①から⑤までの流れに沿って実行します。
①予算目標を立てる
会社の戦略や目標を明確にし、それに基づいて数値目標を設定します。具体的には売上や利益、コストなどの具体的な数値に、これらを反映させていきます。
この目標設定は現実的かつ達成可能であるべきですが、挑戦的なものであることも大切です。設定する際には、過去の実績や市場のトレンドを参考に、部門ごとの予算を調整し、全体の予算と目標を整合させていくと良いでしょう。
②KPIとスケジュールを決める
KPI(重要業績評価指標)とは、目標達成の進捗を測るための指標です。達成状況を観測する定量的な指標のことで、具体的には、売上成長率や利益率などが挙げられます。
また、あらかじめスケジュールを設定し、定期的にKPIを確認することも大切です。例えば、月次レビューや四半期ごとに見直すことなどが考えられます。
③月次決算を行う
月次決算では、各月の業績を詳細に分析します。売上や費用、利益などの実績を集計し、予算と実際の数値を比較します。このプロセスでは、取引先からの請求書や内部の支出レポートなどをもとに、正確な財務データを収集し、仕訳や調整を行うことが大切です。
月次決算を行うことで問題が早期に発見できるため、迅速な対応が可能になるでしょう。
④予算と実績を比較し、課題を把握する
月次決算の結果をもとに、予算と実績を比較します。もし差異が生じている場合はその原因を分析し、どの部門や項目で予算超過や不足が発生しているかを特定しなければなりません。
この作業により、具体的な課題を把握し、適切な対策を検討するため準備が整います。
⑤対策を検討・実行する
課題を把握した後は、その解決策を検討し、実行に移します。この際、対策は具体的で実行可能なものでなければなりません。
例えば、売上が不足している場合は売上増加のためのマーケティング施策を増やし、経費が多い場合はコスト削減のための仕入れ方法の変更などを行います。対策を実行した後はその効果を再び評価し、必要に応じてもう一度調整を行います。
このように継続的な改善を行うことで、予算の達成が実現されます。
予実管理で重要なポイント
予実管理を行ううえで、注意すべきポイントは、主に以下の6点です。
現実的な予算を設定する
予実管理をするうえで重要なのは、現実的な予算を設定することです。これにより従業員のモチベーション維持につながりますが、予算が高すぎると達成不可能だと感じてしまい、やる気が低下してしまうでしょう。
また、現実的な予算は企業の成長を促進します。適度な目標を設定することで、従業員は自身の能力を最大限に発揮するようになるため、企業の抱える潜在的な課題が見つかるようになります。
さらに、現実的な予算設定を行えばリソースの最適な配分が行われるため、無駄を減らして効率的な経営を進めることもできるでしょう。
見直しのタイミングを決めておく
予実管理をするうえで、計画見直しのタイミングをあらかじめ決めておくことも大切です。
まず、計画の進捗を定期的に確認することで、問題が早期に発見でき、迅速に対応できます。例えば、売上が予想よりも低い場合は、早めに対策を講じることで、年度末までに目標を達成する可能性が高まるでしょう。
次に、計画の見直しは柔軟な対応を可能にします。市場の変化や競合他社の動きに合わせて適宜計画を修正すれば、企業の競争力を維持できます。
定期的に実施する
予実管理は、できれば毎月行うようにすると良いでしょう。1ヶ月ごとの予実差が把握できれば、それを翌月の業務に活かせるからです。
月次で進捗を確認し、計画と実績のギャップを早期に発見することで、迅速な対応が可能になります。例えば、予算の超過や売上の不足が見つかれば、次月の計画に適切な修正を加えられるでしょう。
また、定期的なチェックは、市場の変化や競争環境に柔軟に対応するのに役立ちます。状況に応じて計画を調整することで、企業の競争力を維持・向上させることが望めます。
細かな数値に気をとられないようにする
予実管理では、細かい数値に過度に気をとられるべきではありません。なぜなら、予算と実績の細かな違いにばかり注目すると、予実管理の核心を見失うことになるためです。
予実管理の主な目的は、現状を把握し、経営改善のための戦略を立てて実行することです。差異の分析は、そのための手段にすぎません。
予算と実績の比較や差異の分析に過度に焦点を当てると、いつの間にかそれが目的と錯覚してしまう可能性があります。そのため、予実管理の本質を忘れずに、分析を実効性のある改善策の策定と実施に活用することが重要です。
自動化で業務効率化を図る
予実管理を自動化すると、データの収集や分析、報告作業が迅速かつ正確に行えます。手作業で行うと、データ入力や集計ミスが発生しやすく時間もかかりますが、後述の自動化ツールなどを使えば、これらのリスクが軽減できるでしょう。
また、自動化により、リアルタイムでのデータ更新が可能になります。その結果、迅速な意思決定が可能となり、市場や経営環境の変化にすばやく対応できるようになります。
さらに、従業員は煩雑な作業から解放され、より価値の高い業務に集中できるため、全体の生産性も向上することが望めるでしょう。
すばやくPDCAを回す
予実管理を行う際、迅速にPDCAサイクルを回すことが重要です。
P(Plan)…計画
D(Do)…実行
C(Check)…評価
A(Act)…改善
PDCAを効率よく進めることで、計画を実行し、その結果を確認したうえで改善策を迅速に講じられます。また、早期に改善策を実施することでリソースの無駄を防ぎ、業務の効率化が進みます。さらに、従業員の進捗把握が容易になるため、モチベーションの向上にも寄与することが望めるでしょう。
予実管理が効率的にできるツール
予実管理を自動化するために効果的なツールとして、以下の3つを紹介します。
Excel
予実管理において、Excelは非常に効率的なツールです。Excelはデータの整理、計算、グラフ作成などが容易に行えるため、予算と実績の比較や分析がスムーズに進みます。セルに入力したデータをもとに自動的に計算を行い、視覚的に進捗を把握できるグラフを作成することも可能です。
また、関数やピボットテーブルを使用することで、複雑なデータ分析やレポート作成も効率的に行えます。これにより予実管理の精度を高め、迅速な意思決定をサポートします。
Googleスプレッドシート
Googleスプレッドシートも予実管理には非常に便利なツールです。Excelとは違いクラウドベースであるため、複数のユーザーがリアルタイムでデータを共有・編集でき、協力して作業を進めるのが簡単です。
また、自動保存機能や履歴管理があるため、作業内容を失う心配が少なく、常に最新の状態で予実管理が行えます。
SFA(営業支援)ツール
SFA(Sales Force Automation)は、営業活動を支援するシステムのことです。SFAを活用すれば、顧客情報や案件の進捗、商談事例などが効率的に管理・共有できます。
SFAを活用すると、これまでは営業担当者が個別に管理していたデータを一元化し、チーム全体での情報共有が可能になります。
まとめ
予実管理とは、計画と実績の違いを確認し、業務を改善するプロセスのことです。予算を立てて実績を集め、差異を分析して改善策を実行することで、予算と実績のズレを早く見つけて、適切な改善が行えるようになります。
また、効率よく進めるためには、定期的なチェックとすばやいPDCAサイクルの実行も大切です。その際には自動化ツールやSFAシステムを使うことで、データ管理が簡単になり、業務の効率も上げられるようになるでしょう。