利益の源泉とも言われる「粗利」は、事業の現状を示す重要な数値のひとつです。粗利とは何か、また他の数値とはどう異なるのかを把握しておかなければ、適切な判断はくだせません。事業の現状を正確に把握するためにも、粗利について知っておきましょう。
今回は粗利について、営業利益との違いや計算方法、上げるコツまでわかりやすく解説します。粗利からわかること、粗利を見るうえでの注意点などにも触れますので、ぜひ参考にしてみてください。
粗利とは?
まずは、粗利の定義と計算方法をご説明します。
売上高から売上原価を引いた「売上総利益」のこと
粗利(あらり)とは、売上高から売上原価を引いた「売上総利益」のことであり、その事業の最も基礎的な利益を表します。ビジネスの場では粗利、会計の場では売上総利益と呼ばれることが多く、損益計算書を構成する5つの利益のひとつにも数えられています。
粗利の計算方法
粗利の計算方法は、以下のとおりです。
- 粗利 = 売上高 − 原価
原価とは、製造業の場合は製造原価、その他の場合は売上原価をさし、以下の方法で求められます。
- 原価 = 期首商品棚卸高 + 当期商品仕入れ高 - 期末商品棚卸高
なお、原価を求める式を構成する数値は、以下のように定義されています。
- 期首商品棚卸高:会計期間の最初に存在した在庫の価値(前年度から引き継いだ在庫の残り)
- 当期商品仕入れ高:会計期間中に追加で仕入れた在庫の価値
- 期末商品棚卸高:会計期間の最後に存在する在庫の価値
例えば、会計期間中の売上高が100万円、期首商品棚卸高・当期商品仕入れ高・期末商品棚卸高がそれぞれ全て50万円の場合、粗利は50万円となります。
粗利率の計算方法
粗利率とは売上高に占める粗利の割合を示す数値であり、粗利益率とも言われます。粗利率の計算方法は以下のとおりです。
- 粗利率(%)= 粗利 ÷ 売上高 × 100
例えば、売上高が100万円、粗利が50万円の場合、粗利率は50%となります。
粗利とその他「利益」との違い
損益計算書の利益は、粗利(売上総利益)の他、以下の4つで構成されています。
<粗利を除く損益計算書の利益>
- 営業利益
- 経常利益
- 税引前当期利益
- 当期純利益
それぞれの違いや特徴、計算方法、使用する場面を見てみましょう。
営業利益との違い
営業利益とは、本業の売上高から原価・販売費及び一般管理費を差し引いた数値のことであり、以下の計算式で求められます。
- 営業利益 = 売上高 − 原価 − 販売費及び一般管理費
「売上高 − 原価」で計算される粗利とは、販売費及び一般管理費の有無が異なります。なお、販売費及び一般管理費とは、売上に関わる原価以外の費用であり、具体的には以下のようなものが含まれます。
<販売費及び一般管理費の内訳>
- 営業社員の給与や交通費
- 広告宣伝費
- 配送料や出荷手数料
- 総務・経理などの間接部門の費用
- 消耗品代
- 家賃
- 水道光熱費
など
営業利益は、「本業」の利益に関わる数値であり、副業の利益は含まれません。例えば、化粧品会社が株式運用で利益を得ていたとしても、営業利益には化粧品の売上高のみを計上します。
営業利益からわかるのは、本業で得られている利益です。そのため、現在の本業の調子、過去との比較、本業と副業のバランスを見るなどの場面でよく使われます。
経常利益との違い
経常利益とは、通常の営業活動で得られる利益のことであり、以下の計算式で求められます。
- 経常利益 = 営業利益 + 営業外収益 − 営業外費用
営業利益とは異なり、経常利益には副業や株の売却益なども含まれます。
ただし、イベントや災害などによる突発的な利益・損失は含みません。そのため、突発的な損失の影響を見る、本業と副業のバランスを見るなどの場面でよく使われます。
税引前当期利益の違い
税引前当期利益とは、突発的な利益・損失を含む、税金を差し引く前の純粋な利益のことであり、以下の計算式で求められます。
- 税引前当期利益 = 経常利益 + 特別利益 - 特別損失
経常利益とは異なり、税引前当期利益には、イベントや災害などによる突発的な利益・損失も含まれます。そのため、突発的な損失の影響を見る、今後も続く利益かどうかを判断するなどの場面でよく使われます。
当期純利益との違い
当期純利益とは、最後に手元に残る純粋な利益のことであり、以下の計算式で求められます。
- 当期純利益 = 税引前当期利益 − 税金とその他の費用
当期純利益は、売上高や自己資本、総資産との割合などを見て経営状況を分析する場面でよく使われます。
粗利からわかることとは?
粗利からは、以下のようなことがわかります。
<粗利からわかること>
- 自社が得た利益
- 原価の妥当性
- 戦略の妥当性
- 商品・サービスの付加価値や競争力
それぞれの内容を、詳しく見てみましょう。
自社が得た利益
粗利から経費を差し引けば、簡単に自社が得た利益がわかります。そのため、粗利は大まかな経営指標として、例えば「赤字を避けるため経費を粗利以下に抑える」などというように使えます。
原価の妥当性
粗利からは原価の妥当性も判断できます。例えば、粗利が低いということは、原価に対してあまり利益を生み出せていないということです。そうした場合は、原価を下げる工夫をする必要があるでしょう。
ただし、妥当な粗利率は業種によって異なります。「業種によって適正値が異なる」で解説しますので、詳しくはそちらをご確認ください。
戦略の妥当性
粗利は商品やサービスの性質、戦略の妥当性を判断するのにも役立ちます。例として、利益を上げるための戦略と粗利の関係を見てみましょう。
利益を上げるための戦略は、大きく以下の2つに分けられます。
<利益を上げるための戦略>
- 薄利多売(はくりたばい):低い粗利の商品を多く売る
- 厚利少売(こうりしょうばい):売れる数は少ないが粗利が高い商品を扱う
どちらを取るかは経営方針次第ですが、一般的には2つを混ぜるのが強いと言われています。例えば、店先に薄利多売の商品を置いてお客を呼び込み、店内で厚利少売も商品を買ってもらうというような戦略です。
粗利を把握すれば、薄利多売・厚利少売のどちらにあたる商品・サービスなのか、今行っている戦略が妥当なのかがわかります。このため、商品・サービスごとに粗利の計算が求められることも少なくありません。
商品・サービスの付加価値や競争力
粗利は「売上高−原価」であり、原価に上乗せされた付加価値や競争力という見方もできます。例えば、飲食店において、1,000円で仕入れた材料で1,500円の定食を作った場合、調理によって原価に上乗せされた付加価値(粗利)は500円です。
粗利が低いということは、商品・サービスに原価を上回る付加価値・競争力があまりないとも言えます。商品・サービスの内容を見返してみる必要があるでしょう。
粗利を見るうえでの注意点
粗利を見るうえでは、以下の点に注意してください。
<粗利を見るうえでの注意点>
- 業種によって適正値が異なる
- 粗利だけを見て経営判断をしてはいけない
それぞれの内容を詳しく見ていきましょう。
業種によって適正値が異なる
粗利の適正値は業種によって異なります。業種ごとの粗利率の目安は以下のとおりです。
【業種ごとの粗利率の目安】
- 建設業 55.4%
- 製造業 65.1%
- 情報通信業 87.8%
- 卸売業 24.3%
- 小売業 32.4%
- 不動産業、物品賃貸業 92.0%
- 学術研究、専門・技術サービス業 96.2%
- 宿泊業、飲食サービス業 71.7%
- 生活関連サービス業、娯楽業 84.9%
- その他サービス業 63.3%
例えば、粗利率が同じ70%であっても、情報通信業と建設業とではその意味が全く異なります。粗利は業種ごとの適正値を基準に判断しましょう。
粗利だけを見て経営判断をしてはいけない
粗利には、販売費及び一般管理費、つまり広告宣伝費や消耗品代、家賃、水道光熱費などが含まれていないため、単純にそれだけを見て経営判断はできません。
例えば、Aの粗利が50万円・Bの粗利が70万円だとすると、一見Bのほうがよく見えますが、Aの家賃が20万円・Bの家賃が30万円なら、実質的に儲かっているのはAのほうです。
経営判断をするときは、粗利だけでなく経費全体や営業利益にも目を向けてみましょう。
粗利を上げるためのポイント
粗利を上げるためのポイントは、主に以下の5つです。
<粗利を上げるためのポイント>
- 単価を上げる
- 原価を抑える
- 生産効率を高める
- 販売促進戦略を見直す
それぞれの内容を詳しく見ていきましょう。
単価を上げる
同じ原価のまま単価のみを上げれば、そのぶん粗利も上がります。ただし単価が上がると、それまでの顧客が離れていくリスクもあります。商品・サービスの付加価値や競争力も含め、慎重に検討しましょう。
原価を抑える
原価を抑えられれば、そのぶん粗利が上がります。原価を抑える方法としては以下のようなものが考えられます。
<原価を抑える方法>
- 供給元に値下げ交渉する
- より安い供給元を探す
- 大量購入して単価を下げる
- より安い代替品を探す
- 外注費を削減する
など
原価を抑える方法は、顧客側にほとんど影響がないぶん、単価を上げるよりリスクが低いと言えます。供給元や社内に負荷をかけすぎない範囲で積極的に検討してみましょう。
生産効率を高める
生産効率が高まれば原価が下がり、そのぶん粗利が上がります。生産効率を高める方法としては以下のようなものが考えられます。
<生産効率を高める方法>
- 製造や加工の工程数を減らす
- やり方を変更する
- 無理や無駄をなくす
- IT化を進める
など
コストや時間がかかる可能性はあるものの、少子高齢化が進んでいる現在、粗利を抜きにしても考えておきたい項目です。
販売促進戦略を見直す
販売促進戦略の見直しは、粗利の向上につながる可能性があります。例えば、粗利率の高い商品・サービスを積極的に売り出す、ブランド化して付加価値や競争力を高めるなどといった方法が考えられるでしょう。
まとめ
粗利とは、売上高から原価を引いた最も基礎的な利益のことです。営業利益とは異なり、広告宣伝費や消耗品代、家賃、水道光熱費などといった販売費及び一般管理費はまだ引かれていません。
粗利は、原価や戦略の妥当性、自社が得た利益、商品・サービスの付加価値や競争力を判断するのに役立ちます。粗利を利用する際は、業種ごとの適性値を基準にし、それだけで経営判断をしないようにしましょう。
なお粗利が低い場合は、単価を上げる、原価を抑える、生産効率を高める、販売促進戦略を見直すなどといった方法で上げられます。