働き方が多様化しつつある現在、副業を持つ方やフリーランスの方も増えてきました。なかには、個人事業主として仕事をしていくか、法人化するべきか、お悩みの方もいらっしゃるのではないでしょうか?
そこで今回は、個人事業主と法人の違いについて、税金や経費、会計業務などを詳しく比較していきます。法人化を判断するポイントについても触れますので、ぜひ参考にしてみてください。
個人事業主、法人とは?
「個人事業主」は個人で事業を営む者、「法人」は一定の目的において財産・権利・義務を持って事業を営む集団を指します。何らかのビジネスを行ううえで、財産・権利・義務を持つのが個人なら個人事業主、集団なら法人と考えると、分かりやすいでしょう。
個人事業主と法人の違い
個人事業主と法人の違いを、項目別に詳しく解説します。
起業手続きの違い
個人事業主の起業手続きは、管轄税務署に「個人事業の開業・廃業等届出書(開業届)」を提出するのみとシンプルです。一方、法人の起業手続きは、会社の基本事項・定款・印鑑の作成、資本金の払い込み、法務局への登録など、複雑で手間がかかります。
事業の開始・維持にかかる費用の違い
個人事業主の事業開始には、基本的に費用は必要ありません。一方、法人の事業開始には、登記費用や資本金などが必要であり、最低でも24万円前後がかかります。
また、法人は赤字でも法人住民税が発生するほか、社会保険料の会社負担分も納めなければなりません。事業の開始・維持ともに、法人の費用負担のほうが大きいと言えます。
税金の違い
個人事業主と法人の税金は、以下のように異なります。
【個人事業主・法人 税金の違い】
[ 個人事業主 ]
・所得税
・個人住民税
・消費税
・個人事業税
[ 法人 ]
・法人税
・法人住民税
・消費税
・法人事業税
なかでも最も大きな違いは、所得税と法人税の税率です。所得税が所得額に応じて5~45%と増えていくのに対して、法人税は800万円以下の部分は15~19%、それを越えると一律23.2%です。
こうした税率の違いから、利益が900万円未満なら個人事業主のほうが、それを越えると法人のほうが、節税効果が高いと言われています。
社会保険負担の違い
社会保険とは厚生年金・健康保険などを指し、従業員と会社がそれぞれ定められた割合で費用を負担します。
個人事業主は、従業員が5人未満であれば、社会保険への加入義務はありません。一方で法人は、たとえ従業員が経営者1人だけであっても、社会保険に加入する義務が発生します。事務手続きが複雑になるのはもちろん、社会保険料の会社負担分も支払わなければなりません。
経費の範囲の違い
個人事業主は事業にかかった費用を、法人はそれにプラスして経営者自身への給与・賞与・退職金などを、経費として計上できます。経営者自身への報酬を経費にできるぶん、法人のほうが節税効果を見込めます。
社会的信用度の違い
ここまで解説してきたとおり、法人は個人事業主に比べ、手続きや費用の負担が重い傾向があります。しかし、そのぶん社会的信用度が高く、仕事や人材を獲得しやすいでしょう。
資金調達のしやすさの違い
個人事業主は法人に比べ、銀行の融資審査が通りにくく、通ったとしても少額になりやすい傾向があります。また、法人のように、株式や社債を発行し、資金を調達することができません。
これらのことから、資金調達については法人のほうがしやすいと言えます。
責任範囲の違い
事業による負債が発生した場合、個人事業主は基本的に、その全てに責任を負わなければなりません(これを無限責任と言います)。一方、法人の責任範囲は資本金の範囲に限られ、経営者の個人的な資産は守られます(これを有限責任と言います)。
事業が失敗したときのリスクは、個人事業主のほうが大きいと言えます。
会計・経理業務の違い
個人事業主・法人は、どちらも毎年税務署への申告をしなければなりません。しかし、その内容は以下のように異なります。
【個人事業主・法人 申告の違い】
[ 個人事業主 ]
確定申告
申告期限: 2月16日~3月15日
必要書類:
・確定申告書
・損益計算書
・貸借対照表 など
[ 法人 ]
法人決算
申告期限: 各法人で決めた決算日まで
必要書類:
・確定申告書
・損益計算書
・貸借対照表
・キャッシュ・フロー計算書
・勘定科目内訳書
・事業概況説明書 など
個人事業主に比べて法人は必要書類が多く、会計・経理業務の負担も大きくなります。
赤字繰越できる期間の違い
個人事業主は3年間、法人は10年間に渡って赤字を繰越できます。法人の期間のほうが3倍以上長いぶん、事業の浮き沈みを乗り越えやすいでしょう。
事業承継のしやすさの違い
個人事業主が事業を引き継ぐときは、前任者・後任者双方の税務署への書類提出、前任者からの後任者への贈与や相続手続きなどが必要になります。一方、法人は集団そのものが事業を行っているため、個人事業主のような複雑な手続きは必要ありません。
事業廃止手続きの違い
個人事業主は、管轄税務署に廃業届を提出するだけで、簡単に事業廃止を手続きできます。一方で法人の場合は、法務局や税務署など各所への手続きが必要なうえ、少なくとも8万円前後の費用がかかります。
個人事業主が法人化する判断ポイントは?
個人事業主が法人化する判断ポイントには、以下のようなものがあります。
<個人事業主が法人化する判断ポイント>
・法人向け事業を強化したい
・より多くの資金を調達したい
・より多くの人材を雇用したい
・利益が900万円を超えた
これらに該当する方は、法人化を検討しましょう。
まとめ
法人は個人事業主と比べて、手続きや費用が重くなる傾向があります。しかし、そのぶん社会的信用度が高く、利益が900万円を超える場合などは節税効果も見込めます。事業を拡大したいとき、利益が900万円を超えたときなどは、法人化を検討してみましょう。