新たに法人を設立した際、決算賞与に関して「ほかの賞与と具体的になにが違うのか」「毎年支給すべきなのか」など疑問があるかもしれません。そこで今回は、決算賞与とはどのような賞与なのか、基本的な部分から節税対策も含めて解説します。
決算賞与を支給するメリット・デメリットも解説するので、支給すべきか悩んでいる経営者の方はぜひ参考にしてみてください。基本的な知識を頭に入れておけば、支給の判断基準が明確になり、経理処理の流れも把握しやすくなるでしょう。
決算賞与とは?
決算賞与とは、年度ごとの業績に応じて支給する賞与です。ここでは、通常の賞与との違いや支給タイミングなど、基本的な知識を解説します。
通常の賞与(ボーナス)との違い
通常の賞与(ボーナス)との違いについて見ていきましょう。
【決算賞与と通常賞与の違い】
[ 決算賞与 ]
支給時期: 決算日翌日から1ヶ月以内
支給額: 上限・下限がない
[ 通常賞与 ]
支給時期: 一般的には夏と冬
支給額: 企業が定める算定方法に従う (※基本給○ヶ月分など)
決算賞与は、業績に左右されるため、支給額の上下限がありません。一方、通常の賞与は企業の規定に従って算出されるため、毎年大きく変動する賞与ではありません。
決算賞与を支給するタイミング
決算賞与は、決算日(事業年度終了日)翌日から1ヶ月以内に支給します。
たとえば、4月1日~3月31日までを事業の年度とすると、決算期は3月です。この場合、決算賞与の支給が行われるのは4月30日までの期間となります。
支給要件・対象者・金額の決め方
決算賞与の支給要件ついて、対象者・金額の決め方の一般的な例を見ていきましょう。
<決算賞与の対象者・金額の決め方>
・対象者:決算期間中に在籍している人、一定の日数を勤務した人 など
・金額:余剰分の利益を支給、個人の成績によって決める など
決算賞与は企業の裁量により支給されるため、厳格なルールはありません。
決算賞与を支給するメリット
決算賞与を支給するメリットを3つ解説します。
従業員のモチベーションを向上させられる
決算賞与は、従業員にとって「自分の頑張りが評価される時期」と感じてもらえる可能性があります。
企業の業績は従業員が支えています。つまり、決算賞与とは、従業員の努力の成果とも言い換えられるでしょう。従業員の成長意欲や新たなイノベーションにつながる可能性があり、市場での競争力を高められるかもしれません。
損金算入をすることで税金対策になる
損金算入により過剰な利益を減らし、法人税を節約できる可能性があります。ただし、「法人税法第72条3第2号」の要件を満たさなければなりません。
<主な要件>
・同時期に支給を受けるすべての従業員に対し、金額を個別に通知する
・通知した金額を事業年度終了日の翌日から1ヶ月以内に支給する
・通知した金額に対し、通知日の属する事業年度中に損金経理を行う
役員は従業員ではないため、役員賞与として扱われます。上記の要件を満たせず、損金算入できないので注意してください。
自社のイメージアップにつながる
決算賞与を支給できる企業は、従業員に対し感謝の意を示す企業として認識されやすくなり、イメージアップにつながるでしょう。社会的な評価はもちろん、ステークホルダーからの信頼を得られる可能性もあります。
イメージアップを図りたい企業は、決算賞与の支給も検討しましょう。
決算賞与を支給するデメリット
決算賞与を支給することで生じるデメリットを2つ解説します。
キャッシュフローが悪化する
決算賞与により社内を流れる資金が停滞すると、キャッシュフローの悪化につながります。
顧客から得られる収益と、運営に係る資金や設備投資の支出など、企業経営はキャッシュフローのバランスを取ることで成立します。しかし、決算賞与により余剰資金を過剰に放出した場合、キャッシュフローの悪化で経営が成り立たないリスクもあります。緊急的に必要な資金は残しつつ、バランスを考慮して支給しましょう。
従業員に翌年の支給への期待をもたせてしまう
本年度の決算賞与が高額だった場合、「翌年も同額が支給されるのでは」と従業員に期待させる恐れがあります。翌年の金額次第では、従業員のモチベーション低下につながりかねません。
決算賞与は、あくまでも臨時の報酬であることを周知しましょう。
決算賞与を支給する際のポイント
決算賞与を支給する際のポイントを5つ解説します。節税対策につながるポイントなので、経営者の方は必ず目を通しておきましょう。
書面で通知する
損金算入の要件を満たすためにも、通知は書面で行いましょう。「損金算入をすることで税金対策になる」でも解説したとおり、損金算入を行うには、各従業員に個別で金額を通知しなければなりません。口頭でも金額は伝えられますが、伝えたことの証明ができません。通知用の書類を作成し、控えなどを残しておくことで、従業員への通知が行き届いているかを確認できます。
決算日から1ヶ月以内に支給する
決算賞与を損金算入するには、決算日(事業年度終了日)から1ヶ月以内に支給しなければなりません。1ヶ月を超えて支給すると、当期の経費として認められず、翌期扱いとなります。たとえば、決算日が4月1日だった場合、5月1日の支給は当期の経費として認められません。節税対策ができないため注意しましょう。
通知内容と同じ金額を支給する
決算賞与は、通知内容と同じ金額を支給しなければ、損金算入の要件を満たせません。法人税法において、損金算入の要件が定められる理由は、課税所得や納税額を調整させないためです。たとえば、多額の決算賞与で損金算入を行い、実際の支払いが通知額より少ない場合、企業側は従業員への支給額を抑えつつ、納税額も減額できます。こうした不正を許さないためにも、通知通りの金額を支給しなければ損金算入できない要件が定められています。当期の節税対策を行えるよう、決算賞与は通知通りの金額を支払いましょう。
銀行振込で支給する
銀行振込で支給することにより、損金算入の以下の要件を満たせます。
<証明できる要件>
・従業員に支給した金額
・決算日から支払日までの期間
銀行振込の場合、金額や日付が記録されるため、上記の要件を満たす証明ができます。
決算期終了日までに損金算入をする
決算期終了日までに損金算入を行わなければ、当期の経費として扱われません。損金算入の要件には、「通知日の属する事業年度中に損金経理を行う」とあります。決算賞与の具体的な支給額は、決算後に判断できます。しかし、損金算入の要件を満たすには、事業年度中(決算期終了日)に処理を行わなければなりません。
そのため、当期の決算賞与を損金扱いするには、まず未払い金として計上し、対象の従業員に通知する必要があります。もちろん、事業年度終了日から1ヶ月以内に支給しなければ、損金算入できないので注意してください。
まとめ
決算賞与は、通常の賞与とは異なり、企業の業績が好調なときに支給できる臨時的な賞与です。法人税への節税対策はもちろん、従業員の努力や仕事ぶりを評価できる機会でもあります。
ただし、節税対策を行うには、損金算入を行わなければなりません。損金算入は法人税法の要件を満たす必要があるため、処理を行う際は「決算賞与を支給する際のポイント」で解説したポイントも押さえてください。
正しく処理を行い、会社への負担を抑えつつ、従業員へも適切に還元しましょう。