
「今日は3,000歩ですね」
ウォーキングアプリや歩数計アプリを開けば、今日何歩歩いたかはすぐに分かる。でも、そう教えてもらったところで、そこから急に散歩へ出かけるほど私は素直ではない。
疲れた。今日は忙しい。外に出るのが面倒だ。歩かない理由なら、いくらでも思いつく。
だったら、数字を見せるだけでなく、AIコーチに毎日声をかけてもらえばいいんじゃないか。しかも、そのAIが土佐弁だったり、関西弁だったりしたら、歩く気にも違いが出るかもしれない。
というわけで、確かめてみることにした。
ルールはこうだ。
・FitbitのAIコーチを、土佐弁→関西弁→標準語の順に1週間ずつ切り替える
・歩くのは私一人、AIコーチも同じもので、変えるのは基本的に口調だけ
・3週間の歩数を実測し、Fitbitの記録で比べる
果たして、一番私を歩かせるのは何弁なのか?
方言3番勝負、開幕だ!
まずは土佐弁からスタートした。
土佐弁なら、豪快に「歩くぜよ!」と背中を押してくれるに違いない。そう期待してやり取りを始めたのだが、どうも思っていた感じと違う。
なんというか、普通なのである。そこで私はAIコーチに言った。
「土佐弁がうすい」
ウォーキング指導をお願いしたはずが、なぜかこちらが方言指導を始めてしまった。するとAIもすぐに反応し、「ここからはガチの土佐弁でいくき」という趣旨の返事が返ってきた。

これこれ!
何を基準に私が合格を出しているのかは分からないが、とにかく土佐弁の濃度(?)は上がった。
その後、水戸の千波湖を歩こうと相談すると、AIは千波湖1周約3kmを歩きながら、インターバル速歩などを取り入れるプランを提案してきた。ここまでは普通のウォーキングコーチだ。ところが、最後に飛び出したのがこの激励である。
「水戸の朝に土佐の風を吹かせて」
水戸に、土佐の風。
何を言っているんだ。
……と思ったはずなのに、私は「貴様、面白いこと言いよるな!」と返し、最終的には「チェスト!」を連発していた。
完全に乗せられている。
土佐弁として正しいのかどうかはさておき、AIとのやり取りが妙に楽しくなってきた。
土佐弁コーチとの会話は、ウォーキングだけでは終わらなかった。
散歩中にできる運動を聞けば、ちゃんと答えてくれる。それはいい。問題は私のほうで、
・豚骨ラーメンを食べれば「大盛りじゃ。スープは半分くらい残ってる」
・サーティワンを食べれば「チートデーじゃ」
・焼肉の日は、肉、ご飯、ユッケ、スープまで説明
と、聞かれてもいない食事を次々と報告していた。



……今回の目的、歩数を増やすことだったよな?
最初は「歩け」と言ってもらうために使い始めたAIコーチなのに、方言で会話しているうちに、こちらから話しかける場面がどんどん増えていた。
食事を報告しても、歩数は1歩も増えない。それでも土佐弁の1週間で、私は食事でも運動でも、何かあるたびにAIコーチを開くようになっていた。
AIコーチを開く回数が増えたことが歩数に表れているかは、3週間分の記録を見るまで分からない。
次に待っているのは、関西弁である。
2週目は、AIコーチを関西弁に変更した。
土佐弁では、途中からこちらまで「チェスト!」と言い始めるほど会話に乗せられた。では関西弁になると、AIに話しかける回数や、歩きに出るタイミングは変わるのだろうか。
まず1週間が終わったところで、「この1週間のアクティビティを関西弁で振り返って」と頼んでみた。すると返ってきたのは、まさかの回答だった。
「関西弁での対応やキャラ付けはお受けできへんことになってるんや」
……ちょっと待って。
断り方がめちゃくちゃ関西弁やないかい!!

土佐弁ではこちらの要望に応じてどんどんキャラが濃くなったのに、関西弁ではいきなり思わぬ壁にぶつかった。
ただ、その後のアドバイスには「〜やで」「〜や」といった関西弁が混ざっており、完全に標準語になったわけでもない。なんとも不思議な関西弁コーチである。
肝心の歩数を見てみると、10月8日〜14日の1週間は合計41,077歩、1日平均5,868歩。
日による差はかなり大きく、最も少ない日は1,316歩、最も多い日は9,942歩だった。
そこで今度は「厳しめに評価して」と頼んでみる。
するとAIからは、現在の運動量では目標達成に対してペースが遅れていると指摘され、特に1,000歩台の日が2日あったことを問題視された。
さらに「どんなに忙しくても1日最低5,000歩を下回らない」という底上げまで提案してきた。
なかなか厳しい。
改善策を尋ねると、「1駅手前で降りる」「昼休みに15分散歩する」「帰宅前に遠回りする」など、生活の中へ強制的に歩行を組み込む方法を提案してきた。
方言の濃さでは土佐弁に及ばなかったが、歩数という現実を突きつけて具体策まで出してくるあたり、関西弁コーチは妙に実務派だった。
そして3週目は、標準語に戻すと、またも雰囲気は一変。
1週間の記録を振り返るよう頼んだところ、「全体として運動量は少し控えめな1週間でした」と、丁寧な言葉で厳しい評価が始まった。
10月18〜23日の6日間は合計29,178歩、1日平均4,863歩。10月19日は7,785歩、21日は6,737歩だった一方、18日は1,781歩にとどまる。AIは次の目標として「1日6,000〜8,000歩」を安定して歩くよう勧めてきた。

ところが、深夜3時まで飲んだことを伝えると「本日は体調を優先して無理のない範囲で」と、今度は休息を優先。むやみに歩けとは言わないらしい。

もっと気になるのは私が送った文章だ。「昨日は付き合いで夜中3時まで飲んでたき」。……あれ? 標準語に戻ったのはAIだけでは?
土佐弁、関西弁、標準語のAIコーチと1週間ずつ過ごし、ついに3週間の検証が終わった。
体感では「この週は結構歩いたな」と思っていても、数字を見るまでは分からない。歩数計アプリは、本人の「頑張った気がする」を容赦なく数字にしてくるのだ。
では、Fitbitの記録を確認してみよう。
・土佐弁(8/30〜9/5:7日):合計56,277歩/1日平均8,040歩
・関西弁(10/8〜10/14:7日):41,077歩/1日平均5,868歩
・標準語(10/18〜10/23:6日):29,178歩/1日平均4,863歩
結果は……

1日平均8,040歩って、かなり歩いてるじゃないか!
しかも、2位の関西弁とは1日平均で2,172歩、3位の標準語とは3,177歩もの差がついている。まさか、あの「チェスト!」を連発していた1週間が、ここまで圧勝するとは思わなかった。
土佐弁、恐るべし……!チェスト!!
さらに面白いのが、使っていたときの感覚とのズレだ。
振り返ってみると、AIコーチとの会話が一番盛り上がったのも土佐弁の週だった。「土佐弁がうすい」と注文をつけたり、聞かれてもいない焼肉の内訳を報告したりと、明らかにこちらのテンションが違っていた。
そして、歩数も土佐弁がトップ。どうやら会話の盛り上がりと実際の歩数は一致していたらしい。もっとも、ラーメンやアイスの報告がウォーキングに役立ったのかは、まったく分からない。
ちなみに、1日何歩歩けば健康にいいのか。厚生労働省の「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」では、成人は「1日約8,000歩以上」が目安とされている。3週の1日平均と比べると、1日平均でこの目安をクリアしたのは、8,040歩を記録した土佐弁の週だけ! 関西弁は5,868歩、標準語は4,863歩と、どちらも届かなかった。
標準語は記録が6日間なので、合計歩数では単純に比較できない。それでも、1日平均で見ると土佐弁が頭一つ抜けている。まさか方言3番勝負で、健康づくりの目安まで達成するとは!
ただし、この数字だけで「土佐弁なら歩数が増える」と言い切るのはさすがに早い。天気や仕事、休日の予定、外出の用事など、1日の歩数を左右するものはいくらでもある。1週目の土佐弁は、企画そのものが新鮮だったというのもある。
言えるのは、私が3週間試した範囲では土佐弁の週の歩数が一番多かった、というところまでだ。
それにしても、頼んだのは口調の変更だけなのに、私は「チェスト!」と返し、聞かれてもいない焼肉の内訳まで報告していた。
3週間の方言3番勝負をまとめると、こうなる。
・一番歩いたのは土佐弁の週(1日平均8,040歩)
・土佐弁の週は、食事まで報告するほどAIコーチを開くようになった
・ただし、方言だけで歩数が決まったとは言えない
ウォーキングアプリや歩数計アプリは、歩いた数字をきちんと残してくれる。でも、歩数を確認しただけで玄関から出られるほど、私は素直ではなかった。
その点、AIコーチの口調は頼めば変えられる。私の場合は、こんなふうに頼んだ。
「あなたは私のウォーキングコーチです。土佐弁で、毎日歩きたくなるように声をかけてください」
うすければ「土佐弁がうすい」と言えば濃くなるし、「優しく褒めて」「ちょっと厳しく」「短い一言で」といった注文も付けられる。
それにしても、土佐弁AIに「水戸に土佐の風を吹かせて」と言われて、本当に「チェスト!」と返すようになるとは思わなかった。
AIコーチの口調を変えたつもりが、先に変わっていたのは私の口調のほうだった。
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