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弁護士による解説シリーズ:DXへの入り口、電子帳簿保存法の改正
会計

弁護士による解説シリーズ:DXへの入り口、電子帳簿保存法の改正

マネーツリー編集部
2020
11
09

電子帳簿保存法が5年ぶりに改正され、2020年10月1日に施行されました。今回の改正で電子帳簿保存法がどのように変わり、利用者はどう対応すべきなのか、また改善された点と残された問題点は何なのかを、本日は落合弁護士にお伺いしてみたいと思います。

その前にまず、これまでの流れと今回の改正ポイントについて簡単に整理してみます。

電子帳簿保存法のこれまでの流れ

電子帳簿保存法は1998年に施行された法律で、正式には「電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律」といいます。

一定の要件を満たした場合、税務申告に必要な領収証や請求書などを紙でなく電子データで保存してもよいと定めた法律で、これまで2005年と2015年の2度にわたり改正され、今回3度目の改正が行われました。

今回の改正ポイント①電子取引の取引情報の保存要件が緩和されました

国税庁作成 「電子帳簿保存法一問一答」より一部抜粋


(注1)電子取引とは、契約書や領収証、見積書などの授受を電磁的方式により行う取引のことをいいます。たとえばAmazonや楽天、交通系ICカードや店頭でのキャッシュレス決済などが電子取引に含まれます。

(注2)オリジナルの電子データとは、たとえばクレジットカードの利用明細などを指します。

これまでは、会社のコーポレートカードで決済した場合でも、別途領収証を発行してもらい、スマホなどで撮影後にタイムスタンプを付与し、電子データとして保存しなければなりませんでした。

また、社員が立て替えた経費などの精算も同様で、紙の証憑を電子データとして保存するのはかなりの手間が必要で、利便性を上げるための制度がかえって利便性を損なわせる皮肉な結果となっていました。

(注3)電子取引の利用明細を保存するためには、JIIMA認証を受けたクラウド会計などのシステムを利用しなければなりません。なお、現時点でJIIMA認証を受けているリストについては、国税庁の資料をご覧ください。

今回の改正ポイント②電子データの受取手のタイムスタンプの付与が一部不要になりました

これまでは、発行者がタイムスタンプを付与していても、受取手も付与が必要でしたが、今回の改正により発行者のタイムスタンプがあれば受取手の付与が不要となりました。

ではこれらのポイントを簡単に踏まえた上で、落合先生に解説していただきたいと思います。それでは宜しくお願いいたします。

――今回の電子帳簿保存法の改正の要点とメリットにはどのようなものがありますか?

落合氏:ひとことで言うと、一定の要件を満たすと電子データを受け取った側の証憑類の保存がしやすくなる、という事ですね。これによるメリットは、例えば経理業務をしている方であれば業務フローの一部が簡略化されますし、一般の社員の方であれば経費精算が断然楽になります。

また、会計ソフト会社であれば、改正後の要件を満たすシステムを利用したいと思うユーザー企業が増えるでしょうから、新規ユーザーが増えることが想定されます。

――ということは、抜本的に変わったというよりは、今回の法改正で要件が緩和されてより利用しやすくなったということでしょうか?

落合氏:そうですね。全体的に書類などを紙ベースから電子データへ移行していこうという流れの中でのアップデートだと考えていただけばよいと思います。ただし、企業単位では電子化が進む会社もあると思いますが、まだまだ紙の証憑も残ると思いますので、社会全体としては、紙の証憑と電子データの証憑が混在している状態がまだまだ続くのではないかと思います。

――では、キャッシュレス化を進めて電子取引を積極的に利用する企業は会計帳簿の作成がかなり楽になる、と考えてよいのでしょうか?

落合氏:確かに楽になる部分はある思います。ですが今回の改正による要件の緩和はおもにスキャナ保存などに関してですが、スキャナ保存についてもまだまだ今後改善すべき点が残されています。

また、証憑を電子化して保存する企業にとっても、先ほどお話ししたように、当分の間は紙をスキャンして保存するものと電子データで保存するものが混在するため、スキャンの期間制限等も含めてまだ課題は残ると思います。キャッシュレス化はたしかに進んでいますが、証憑の電子化がどこまで進むのかまだ不透明な部分もあります。

いずれにしても、電子帳簿保存法自体の改正は状況を見ながら今後も少しずつ行われていくと思われます。また規制改革推進会議でも議論に上がりましたが、民法の領収証の交付規定などもデジタル化を反映したものに改正されていくことも期待されています。

――日本における消費税は、現在10%と8%が混在しています。クレジットカードなどの利用明細では税率が判別できないキャッシュレス決済が発生する可能性もあると思うのですが、そのあたりはどうなのでしょうか?

落合氏:クレジットカードやペイメント事業者の明細では、必ずしも税率が何%かはわからない状況です。このため、どうしても領収書などが必要になってしまい、店舗のPOS側の情報が必要になります。決済側の明細で消費税率を完全に区別し、それを明細などに反映できるものであれば別ですが、現時点では必ずしも対応していないシステムが多いと思います。

このため、残念ながら、キャッシュレス決済などの電子取引であったとしても、旧来通りの処理及び証憑の保存を行う必要が生じるものが残ります。このあたりの電子化された決済情報の拡充は、今後解決すべき課題と言えるでしょうね。

――では次に、今後についてお伺いしたいのですが、今回の電子帳簿保存法の改正後に、それを利用する事業者などの間で起こりうるトラブルなどについては、どのようなものが想定されるでしょうか?

落合氏:こういった改正は一見すると経理業務をやっている人たちだけの問題だと思われがちなのですが、実は経費の精算などに関係するため、一般社員全員もルールを正しく理解しておかなければなりません。

今回改正された法令の理解と、それに即した業務フローの変更と社員への周知が不十分なままで進めてしまうと、残しておかなければならない証憑を紛失してしまう可能性があり、経費精算の処理の間違えが発生する可能性もあります。

――会計帳簿の作成や入力処理といえば、社内の経理部以外にも会計事務所が業務として行っています。会計事務所にとって、今回の法改正はどのような影響があるのでしょうか?

落合氏:会計事務所のすべてのクライアントが今回の法改正で全面的な電子化へ舵を切るわけではありませんから影響はまだまだ限定的だと思いますが、電子取引に関する入力処理や証憑類の保存が、今後の改正も含めて電子化・省力化されていくのは間違いないでしょうね。

将来的には、こういった部分に事務所内のリソースを割く必要が減っていくため、電子化できる部分は電子的手法を導入しつつ、専門家としては、より専門的で高度な分析やアドバイスがクライアントへ提供される方向になることが期待されます。

つまり、業界のサービスレベルがワンランク上がるということでしょうか?

落合氏:これは別に、会計業界だけの話ではありません。弁護士も医療関係ほかの様々な専門家もすべて同じです。電子化が進めば単純作業や雑用的業務が減り、業務の効率化が進むわけですから、そういった作業から解放された分だけ、よりサービスの専門化や質の向上を望む余地が生まれます。

――では逆に、今回の改正では足りなかった部分や、諸外国ではすでに導入されていても日本ではまだ導入されていないサービスなどはありますか?

落合氏:電子帳簿保存法を含めた社会の電子化への流れは、3つの段階に分類することができます。

第1段階が、デジタルファーストへの移行です。書面や押印がデジタル化され、業務もリモート化できる部分が切り分けられ、リモートワークが促進されます。また、会社内では帳簿や契約書をはじめ、各種証憑類が電子化されていきます。現段階で起きている流れはこの第1段階です。

次に、第2段階として、電子化した情報処理の省力化です。情報を電子化することにより、大量の情報を自動的に処理することが可能になります。ここまで進むまでには、単に電子化だけを目的とするのではなく、その時点で利用できるであろう電子的手法を考えながら、業務フローなど自体も見直していくことが大事になります。フィンテックベンチャーの台頭により外部で利用できるサービスが今後もさらに充実していくでしょうし、また情報処理の精度が上がればコストの削減が出来るようになります。

最後に、第3段階として、これら第2段階までのプロセスや協業先から入手する情報も利用して、情報分析の高度化と、分析に基づくアクションが行われます。情報の収集と分析が瞬時に、しかも高い精度で行えるようになれば、経営判断のスピードアップにつながりますし、企業競争力を高めることにもなります。

日本社会が目指しているデジタル化は、全体的にはこのような流れになるのではないかと思われます。

また海外の事例については、日本と比べると資金調達に関するサービスを行っているフィンテックサービスが海外には多い印象があるので、今後このような分野に関しては日本でも増えていく可能性があります。

つまり、企業の資金調達先が増える可能性があるわけですね。

そうですね。

落合先生、本日はお忙しい中お時間をいただき、誠にありがとうございました。

今回の電子帳簿保存法の改正により、電子取引についての経理処理や社員の経費精算などは随分と便利になりました。その結果、今後はさらにマネーツリーのアカウントアグリゲーション機能が必要とされる機会が増えていくことでしょう。

本日ご紹介した電子帳簿保存法については、これからも改正が続くと思われます。そのたびごとに、みなさんが疑問に思う点などを出来るだけ分かりやすい形で伝えていきたいと思います。

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落合孝文氏プロフィール

Fintech協会理事で渥美坂井法律事務所・外国法共同事業の弁護士。

渥美坂井法律事務所・外国法共同事業パートナー弁護士。

慶應義塾大学理工学部数理科学科卒業。同大学院理工学研究科在学中に旧司法試験合格。森・濱田松本法律事務所で約9年東京、北京オフィスで勤務し、国際紛争・倒産、知的財産、海外投資等を扱った。現事務所に参画後は、金融、医療、不動産、 MaaS 、 IT などの業界におけるビジネスへのアドバイス、新たな制度構築などについて活動を行っており、政府、民間団体のさまざまな理事、委員などを多く務めている。

マネーツリー編集部

筆者プロフィール

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