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岩田昭男・コラム連載 第一回 : キャッシュレス促進のカギを握れ!!
デジタル化

岩田昭男・コラム連載 第一回 : キャッシュレス促進のカギを握れ!!

ライター 岩田昭男
2018
07
23

岩田昭男・コラム連載 第一回 : キャッシュレス促進のカギを握れ!!

コラムの連載を始めるにあたって、私の経歴を少し述べておきます。「消費生活評論家」という看板を掲げていますが、この30年は、ほとんどの時間をクレジットカードの研究に費やしてきました。

クレジットカードの使い方などを新聞や雑誌に寄稿し、テレビでコメントしたりしていましたが、中心となったのは、全国の消費生活センターでの講演でした。

これまでに、北は札幌から南は宮崎まで50カ所を超える地域の会場で話してきました。しかし、苦労も多くありました。キャッシュレス(クレジットカード)については地域差が大きく、東京でしゃべる内容と、地方でしゃべる内容では、若干変えなければ伝わらないといった状況もありました。そして、地方に行けば、行くほど、現金志向が強く、カード嫌いな人が増えていくのも悩みのタネでした。

岩田さん自己紹介

クレジットカードは流行の(ひとしな)くらいだった1990年代

地域差でいえば、大阪が突出していました。1990年代ですが、私は大阪の準キー局に呼ばれて初めてテレビに出ました。タレントの板東英二氏が司会役のバラエティー番組でした。

当時は青木雄二の漫画『ナニワ金融道』が大ブームで、「クレジットカードの使い過ぎが怖い」とか、「借金になるから嫌だ」といったマイナスイメージが強く、とくに大阪では、「現金のほうが信用できる」という人が多かったように思います。

番組では、私がクレジットカードについていろいろと説明しても「そりゃ便利やな」とはいうものの、板東氏は、あまり身を入れて話を聞いてくれませんでした。最後は、長財布を取り出して、「やっぱりこれが一番やな」と現金を持ち上げるようにして終わりました。

クレジットカードの話をしていたのにいつの間にか現金払いが一番だというオチがついたのですが、カードは流行の(ひとしな)くらいにしか思われていなかったのです。

本当のキャッシュレスは電子マネーから始まった

それががらりと変わったのは2001年にEdyやスイカといった電子マネーが登場してからです。電子マネーは端末にかざすだけですぐに支払いができるため多くの人の支持を得ました。またクレジットカードと違って、前払いでしたから借金にならないと言う安心感もありました。
そして、講演の中身も、電子マネーの上手な使い方やポイントの貯め方など前向きな話が多くなって非常に明るくなったことを覚えています。そういう意味でも本当のキャッシュレスは電子マネーから始まったのではないかと思っています。

電子マネーにチャージした分だけ使う「袋分け」で無駄遣いを削減

ケース1: 静岡県富士市の進んだ主婦たち

そんな中で印象に残っているのが2008年の静岡県富士市での講演でした。近くにイオンモールができて電子マネー・ワオンの発行を始めたから電子マネーの仕組みについて講演をしてくれと依頼されました。

聴衆は若い主婦が中心でしたが、彼女たちは皆、電子マネーに対して非常に好意的でした。話を聞いてみると、イオンモールができて、ワオンで買い物するようになってから、無駄遣いがなくなったと言います。毎月、1ヵ月分の生活費(イオンで使う分)をワオンにチャージしているからだと言うのです。

それを聞いて、私はびっくりしました。電子マネーにチャージした分だけ使うと言うのは、いわゆる「袋分け」のノウハウです。よくファイナンシャルプランナーが薦めている節約のための家計管理法で、封筒を用意して食費や光熱費を現金で入れておくというもの。それを誰に言われたわけでもないのに、電子マネーで実践しているのです。この業界ではキャッシュレスを勧めるには、CX(Customur Experiment・良い体験)を重ねるのが一番有効といわれますが、この主婦たちは無意識のうちにそれを実践していたわけです。「良い体験」を自ら発見して積み重ね、それを仲間とシェアすることで強固なものにしているのです。驚くべきことでした。

 とにかくお得を取りたいと言う思いが強いから、この主婦たちは自然とこうしたやり方を発見したのだと思います。ところがこれが非常に効果的であると言う事までわかって彼女たちは自信を持ったのでしょう。

ただこの話をコンサルタントやカード会社の開発部員にしたところ、「よく聞く話だ」「誰でも考えることだ」などと鼻で笑って、全く関心を示しませんでした。
彼らはキャッシュレスをそれこそ何十年も考えてきたわけですからプロ中のプロです。そういう人は、こうした工夫では驚かないのでしょう。頭の中は、もっと先の高尚なことを考えているのでしょう。

しかし、それは違うと私は思います。庶民の生活の視点が抜けてしまえば実用化は難しくなります。実用化したとしても役に立たないものとなるでしょう。利用者がどう考えるか、それをどう取りこむかを思い巡らすことこそが大切なのです。そうした視点が欠けているから、いまのフィンテックは盛り上がりに欠けるのではないかとみています。

「素人目線の大切さ」を感じるのは、いつもこうした講演会でです。次に紹介するのも別の会で聴衆の一人にいわれてハッと気づいたことです。

カード審査が不要なデビットカードで救われた老婦人

ケース2 : 千葉県佐倉市の終活婦人

2014年に千葉県佐倉市の消費生活センターで講演した際には、75歳の老婦人が講演終了後に質問してきました。彼女は終活で身辺をきれいに整理した際、クレジットカードもすべて解約したと言うのです。ところが、大きな問題が発生しました。ネットショッピングが好きで頻繁に利用していたのですが、それを忘れていてカードを全部処理してしまったのです。やむを得ず代引きで頼むことにしましたが、手数料がかかるし、配達員の来る時間帯に家にいなければならない。新たにクレジットカードを作ろうと思っても、審査に通らない。どうしたら良いか、と言う悩みでした。なかなか難しい問題でしたが、話を聞いているうちに、「ブランドデビットなら行けるかもしれない」と思い立ちました。クレジットカードと同じように使えるが与信審査か不要なので銀行口座さえあれば誰でも作れます。そのことを教えてあげたところ、大変喜んでくれました。それから2ヶ月ほどして礼状が来て、「ネットで好きなものを注文して、毎日楽しく過ごしています」と言う内容でしたので、私もほっとしました。これなどもある意味ではキャッシュレス化の新しい体験のうちに入るでしょう。新しい決済ツールに備わっている新しい利用方法を聞いて、自分の生きがいを取り戻したのですから、すばらしい体験だったといえます。

このように消費生活センター主催の講演では、色々と意義深い体験を私の方もさせてもらいました。しかし、いつも消費生活センターだったわけではありません。ときどきは市の商工会議所主催の講演もありました。ただ商工会議所が企画する講演会は少し様相が違ってきます。こちらは商店街にどんなカードを導入すれば良いのかとか新しいテクノロジーを使った実証実験に加わろうとか、いつも意欲に満ちていますから、現場の微妙な感想等はあまり重視されません。いかに効果がありいかにお金が儲かるかが中心になります。

キャッシュレスが急速に進んで皆が大儲けした幸運な町

ケース3 : 金沢市のゴールドラッシュ

2017年に金沢に呼ばれたのもその一つでした。北陸地方は現金主義が根強くてカードの話など全然無理と言われていましたから最初に話があった時はなぜここなのかと不思議でした。
ちょうど北陸新幹線が開通したあとで、東京-金沢間も2時間56分で結ばれて通勤圏内にも入るかと言うほどに近くなりました。
私もその新幹線に乗って金沢に入りました。会場に到着するとホールは熱気でムンムンとしていました。商店主や役人でいっぱいでした。
熱い期待が渦巻いているのが分かりました。そして電子マネーの専門家である私の話を聞き漏らすまいと耳をそばだてているのがよくわかりました。最初はなんでこんなに入れ込んでいるのか分かりませんでしたが、話をしているうちにだんだんとわかってきました。開通したばかりの北陸新幹線が関係していたのです。金沢は鉄道エリアとしてはJR西日本の管轄であって、交通系電子マネーでいうとICOCAの守備範囲です。しかし、ICOCAはあまり普及していないので、京阪神の人が観光に来てもそれほど多くは使われませんでした。そのため金沢市民はどちらかというと電子マネーに疎くて無頓着だったのです。

ところが東京方面からやってくる新しい観光客は大抵スイカやPASMOを持っていて、いろいろな店で必ず「これで支払いができるか」と聞いてきます。

金沢の人はスイカがそこまで普及しているとは知らなかったので驚いたようです。とにかく店も市民もスイカに対応しないといけないし、よく知らなければならないと思うようになり、電子マネー、とくにスイカに詳しい私が講演会に招かれたのです。

スイカが使えるか使えないかで売り上げも大きく変わります。まさに死活問題とあって、私の話に皆さんが聞き入り、一生懸命メモを取ってくれたのです。その姿を見て、これがキャッシュレス時代の幕開けだと思った次第です。私も講演が終わる頃にはこの事情に気づきましたので、スイカの利点を若干は短所を含めてですが、たくさん喋りました。それが奏功したのでしょう。講演会は大盛況のうちに終わりました。

これは新幹線が幸運を運んできてくれた珍しい例です。金沢は東京と新幹線でつながったことでキャッシュレスが急速に進んで皆が大儲けした幸運な町として経済史に残ることでしょう。

以上、講演会で知った3つのケースを紹介しました。最初の富士市は電子マネーの袋分けの発見で、仲間意識の強まった主婦たちの話でした。二番目は、生きがいだったネットショッピングを継続できる喜びを得た老婦人の話、三番目は、新幹線が運んできた幸運を紹介しました。とくに、この例は店主が儲かる方程式を得たという点で、CX(店主にとっては良い体験)だったと思います。こうしたCXをしっかり押さえながら、積み重ねていき、深堀りすることで、キャッシュレスは確実に広がっていくのではないでしょうか。今後の連載の中でも、こうした講演会のエピソードを紹介したいと思っています。お楽しみに。

                     

執筆者:岩田昭男

消費生活ジャーナリスト。1952年生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。同大学院修士課程修了後、月刊誌記者などを経て独立。流通、情報通信、金融分野を中心に活動する。

2018年7月には、30年になるクレジットカード研究と、その間のキャッシュとの戦いを描いた新書「キャッシュレスで得する! お金の新常識」(青春出版社)も出版。

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筆者プロフィール

ライター 岩田昭男

岩田昭男 消費生活ジャーナリスト。1952年生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。同大学院修士課程修了後、月刊誌記者などを経て独立。流通、情報通信、金融分野を中心に活動する。 2018年7月には、30年になるクレジットカード研究と、その間のキャッシュとの戦いを描いた新書「キャッシュレスで得する! お金の新常識」(青春出版社)も出版。

キャッシュレス, 電子マネー, 岩田昭男・コラム

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