2017年5月26日に改正銀行法が成立した改正銀行法が、いよいよ今年2018年6月に施行されます。そこで、この6月に向けて、改正銀行法で今後何が変わるのかについて、さまざまな角度からシリーズで解説します。シリーズ第一回目として、金融機関のオープン・イノベーションを推進するとされるAPIやAPIエコノミーについて解説します。
昨今の金融業界で話題にのぼるAPIとは、「Application Programming Interface」の略で、プログラミング用語に端を発している。ソフトウェア開発時に使用頻度の高い機能を利用する仕組みとして用意したのがAPIだ。厳密に述べるとライブラリーも関与するが、フィンテックという文脈では気にしなくてかまわない。この仕組みを身の回りに置き換えてみよう。多くの業務は役割が異なる複数のメンバーで対応するが、この各担当者が「プログラム」、担当者との情報交換や業務依頼が「API」、これら全体を構成するのが「ソフトウェア」と置き換えれば分かりやすくなる。
1972年に開発が始まったC言語では、標準I/Oライブラリーを導入して、アセンブリ言語で行っていた処理を簡素化し、開発の効率性を大幅に向上させた。同時に開発したUNIXの普及が現在のインターネットを作り上げる基盤となる。
インターネットの普及により、それまでローカルOSで実装していたRPC(遠隔手続き呼び出し)をインターネット上で実行可能になりつつあった。1999年に登場したキーワード「Web 2.0」以降は、JSONやXMLを用いてWebを介したコミュニケーションが始まり、Web APIの黎明期となる。
技術の進化はコミュニケーションツールの多様化を生み出し、XML-RPCによるWebサイト同士の相互連携、RSSフィードによる情報取得が一般的に。Web APIを利用したFacebook (2004年)やTwitter (2006年)が登場したのもこの世代である。2005年の時点でProgrammableWebが掲載したWeb APIは100前後だった。
Web APIは完全普及した。ブログを見ながらツイートやFacebookのコメントなど外部リソースを埋め込むことが可能になり、現存するWebサービスは何らかの形でWeb APIを提供/利用している。他方でiPhone (2007年)や Androidデバイス (2008年)といったスマートフォンの存在がWeb API普及の拍車を掛けた。スマートフォンアプリはサーバーが用意するWeb APIにアクセスし、データの取得など利用者の目的を満たしている。公開/非公開問わず、Web APIは現在のインターネットに欠かせない存在となった。
このAPIをWeb上で公開する潮流が産まれたのは2000年代。インターネットの普及に伴い、開発者の利便性を向上させるためAPIをWebで公開するIT企業が脚光を浴びるようになった。米国のオークション・通販サイトのeBayや、情報・通信系IT企業のセールスフォース・ドットコムがAPIを公開し、AmazonやGoogleが後に続く。2005年にはJohn Musser氏がAPI情報サイト「ProgrammableWeb」を立ち上げ、執筆時点で約2万件のAPI情報を提供するなど、今現在も動きは活発だ。一説によれば、セールスフォース・ドッドコムは50%、インターネットオークションを運営するeBayは60%近く、旅行系オンラインサービスのエクスペディアは90%をAPIから収益を生み出している。
他方でIT企業がAPIに注目する理由の1つが、新ビジネスの創出である。多くの企業は事業領域を定義し、限られた範囲でビジネス活動を行ってきた。だが、APIを外部公開して他の企業が利用した場合、その企業が抱える顧客は自社製品・サービスの顧客となり、それまでリーチできなかった新規顧客獲得へつながる可能性が生まれる。
また、単独企業が一気通貫で対応するのではなく、各企業が協業しつつ多様なサービスを顧客に提供することで、顧客満足度の向上など相乗効果も期待できる。このようなビジネスエコスタイルを加速させる材料として、API活用したのが「APIエコノミー(経済圏)」だ。
このAPIエコノミーが熱い視線を集める理由の1つは、我々を取り巻く社会背景にある。ほぼ全員と言えるほどの人々がスマートフォンやタブレットを使用し、インターネットの先にあるクラウド上からデータの取得や送信を行っている。見渡せば各所にIoTデバイスが存在し、取得したデータを蓄積する例は枚挙に暇がない。
蓄積したデータは顧客動向に用いる例もあれば予兆保全、売り上げ予測など多様な分野で活用できる。一昔前は企業が蓄積した知見でビジネスの舵取りを決めてきたが、今後はビッグデータを元にした機械学習で舵を切ることは珍しくなくなるだろう。このような旧態依然のビジネススタイルが通用しない。それがAPIの時代である。
APIエコノミーは各市場によって盛り上がり具合が異なる。非ビジネス分野では「APIコンシューマー」「SNS(ソーシャルネットワークサービス)」が顕著である。本来Web APIの利用はプログラミング能力が求められるが、Webサービスを連携して新たなサービスを作り出す「IFTTT」「Microsoft Flow」は非開発者でもオープンAPIの利用が可能だ。InstagramやFacebook、Twitterで同じ投稿を行っているケースを多く目にするが、このロジックもIFTTTなどを用いれば誰でも構築できる。
ビジネスシーンにおけるAPIエコノミーの活用例は「IoT」「フィンテック」の2分野が大きい。前者はInternet of Thingsの略称として、すべてのデバイスをインターネットに接続し、センサーなどから得たデータを利用した分析や予兆保全に用いる。後者は金融サービスにIT技術を持ち込むことで利用者満足度の向上などを目指す取り組みだ。IoT分野におけるAPIエコノミーの例としては、インターネットの常時接続を目指したコネクテッドカーで車両情報を取得し、自動車部品の保守や利用者サービスの拡大にAPIを用いる。さらに自動運転車はそれ自体がコンピューターの塊ながらも、分析や周辺認識にクラウド上のAPIを利用するため、熟成したAPI利用環境が欠かせない。
フィンテック分野では、本稿をご覧の方もご承知のとおり多くの銀行に代表される金融機関は信用問題を重視することから保守的にならざるを得ない。そのためIT技術の活用がここまで遅延したが、グローバルの潮流に沿って、日本国内でもみずほフィナンシャルグループは、2016年11月に入出金明細照会の閲覧期間が登録以降、すべて閲覧することを可能とするスマホアプリ「一生通帳 by Moneytree」を「みずほダイレクトアプリ」から呼び出す仕組みを実装。2017年2月にはフィンテック系スタートアップを対象とした日本初のシェアオフィス「FINOLAB」を設立し、さらなるフィンテックサービスの拡充を目指している。
IBMが2016年に開催したイベントでは、APIエコノミーの市場規模が2018年に2.2兆ドル(約233兆円)を超えると予測している。金融機関関係者やIT企業の方であれば、身の回りを見渡してもフィンテックにまつわる案件の増加を肌で感じているだろう。この潮流を金融機関の文脈で見ると、あながち夢見がちな数字ではないと断言できる。現在、電子決済等代行業のアプリは既にAPIを活用して利用者の利便性向上を実現しているからだ。
例えば電子決済等代行業者製アプリは、各種金融機関の情報を集約し、残高やマネーフローを可視化することで、キャッシュレスライフを実現するものが多い。法人向け機能であれば会計システムへの自動データ取り込みや、不動産賃貸の入金データ管理など業務負担の軽減を可能にする。手のあいた人材を他の業務に振り分けることで新ビジネスモデルを創出する例は引きも切らない。
会計企業のTKCは経理業務支援、日本ICSは金融機関データの自動仕訳サービスで業務省力化を可能にした。他方で不動産コンサルティング・賃貸管理を営むBambooboyは、Moneytree LINKの銀行口座APIを活用してクラウド賃貸管理ソフト「ReDocS(リドックス)」を提供している。同社顧客からは「自社業務に時間を費やすことができた」と煩雑な入金確認業務から開放されたとの意見を頂いたという。
このようにAPIエコノミーは金融業界に限らず、他業種においても有益な存在となり、今現在のビジネスフローを大きく覆す存在として注目を集めている。未来のビジネスを生み出す魔法の杖となるだろう。
変わる銀行法シリーズ第二回 : 「改正銀行法と構造的転換」
変わる銀行法シリーズ第三回 :「オープンAPIとセキュリティ」
変わる銀行法シリーズ 最終回 : マークに聞く「オープンAPIの重要性」
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