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地方銀行の最新デジタル施策を討論 マネーツリー主催イベントレポート
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地方銀行の最新デジタル施策を討論 マネーツリー主催イベントレポート

マネーツリー編集部
2017
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2017年6月29日にマネーツリー主催のイベント「API、AIで変えていく地方銀行のデジタルバンキング」を開催しました。2013年から個人資産管理・家計簿アプリ「Moneytree」 の提供を開始し、その基幹システムをAPI化した「Moneytree LINK」のサービスを提供開始したのは、2015年のことです。わずか2年の間に、銀行や会計業界をはじめ多くの企業のサービスと連携され、現在は26社 (2017年7月現在) に採用されています。イベントでは、最も多い接続先の一つである地方銀行のデジタライゼーション施策にフォーカスし、銀行のオープンAPI、AIなどフィンテックについて討論しました。このイベントのハイライトを3回に渡ってレポートします。                      

 

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第一部では「これから始まる地方銀行のデジタルバンキング」と題して、地方銀行のデジタルバンキングを先導する池田泉州銀行の吉岡純太氏、横浜銀行の五十嵐俊行氏、ふくおかフィナンシャルグループ営業戦略部 iBank 事業室の永吉健一氏をお招きし、パネルディスカッションを行いました。マネーツリーからは、共同創業者の一人で、Fintech協会のAPI担当として、最近では海外のカンファレンスで日本のAPIの現状も報告しているマーク・マクダットも参加しました。地方銀行でデジタル施策を先導してきた担当者の方々ですが、その銀行での経歴はさまざまです。それぞれの経歴とバズワードにまでなった「フィンテック」に対する考えを伺いました。

フィンテック以前からあった「テクノロジーによる革新」

池田泉州銀行の吉岡氏は、営業店を6年ほど経験したあと10年ほどIT関連を担当。ここ数年のフィンテックブームに対しては、「振り返って大局観で見て見ると、サービス業として出遅れていた金融分野に、きちんとサービス業としてやりなさいということ。小売では一般化している生産性や業務効率の改善が金融まできた」と分析。元来サービス業である銀行の姿勢を見直す良い機会と捉えながらも、この金融テクノロジーは革新的で大きな変化を生むが故に、保守的な銀行業界ではいわゆる社内改革もテーマとし、日々現実的な落とし込みを模索していると説明しました。

池田泉州銀行の吉岡純太氏
池田泉州銀行の吉岡純太氏

横浜銀行の五十嵐氏は、ダイレクト営業部でアプリとインターネットバンキングの企画運営を担当。営業を6年経験したあと10年以上IT部門にいて、営業という立場でIBの担当をしてきたそうです。フィンテックは決して新しいものではないと述べ、同行では20年前からデータベースの部署を立ち上げてEBM (イベント主導型マーケティング) などを実施してきたように「横浜銀行はデータ中心のアプローチをDNAとして持っている」と説明。フィンテックの流れでもデータを中心としたアプローチを取っていると述べました。

例えば、マーケティング担当者が経験と知見でターゲティングしDMを送っているものを、AIのディープラーニングにやらせる実証実験も行なっているそうです。

横浜銀行の五十嵐俊行氏
 横浜銀行の五十嵐俊行氏

ふくおかフィナンシャルグループの永吉氏は、社内ベンチャーとしてiBankマーケティング株式会社を立ち上げ代表取締役としても活躍。銀行の枠にとらわれない、新しいお金にまつわるサービスを提案しています。

同氏もフィンテックは新しいものではないと言及し、フィンテックという言葉がなかった5年前から金融サービスプラットフォーム「iBank」の企画構想はあったと説明。「今後、少子高齢化で金融業界の市場も縮小する中、新たな層を取り入れる為にも新しいテクノロジーを使いデジタルの世界で展開し、収益の拡大を目指したい」と目標を語ってくれました。

銀行から生まれたフィンテック企業というユニークな立ち位置で、今後も銀行の枠にとらわれない活躍への勢いが感じられました。

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ふくおかフィナンシャルグループ営業戦略部 iBank 事業室の永吉健一氏

 最終的なゴールはオープンイノベーション

イベントのちょうど1ヶ月前の2017年5月26日に、銀行法の一部を改正する法律が可決、成立しました。いよいよフィンテックの流れに法律の整備が追いつき、金融機関のオープンAPIに対応できる体制が整いつつあります。

そこで、Fintech協会 のAPI担当として金融庁や関係各所と議論を進めてきたマネーツリーのマクダットが、現場から見た銀行のオープンAPIの現状について説明をしました。

「ここ一年は、全銀協や民間の検討会で関係者が集まり、銀行法の改正をどうすべきか話し合ってきました。最終的なゴールはオープンイノベーションで、企業や金融機関が新しく面白いサービスを作れる基盤の構築です。銀行にはこの期待に応えられるAPIの提供を検討してもらえるよう調整してきました」と今までの状況を報告。法律を変えると多くの細かい調整が必要になり、まだまだ議論は必要としながらも、これからは、銀行APIを使ったビジネスモデルの構築が課題になるステージに突入したと強調しました。

「より難しいステージで、技術で何をやるか、そして費用対効果の合理性などが重要です。これから2〜3年が実際に面白いビジネスモデルがどんどん出てくる」と、バズワードになったが定義は曖昧だった「フィンテック」が、より具体的なビジネスモデルとして語られ始める時代の到来を示唆しました。 

API議論の本質は、お客さまが求めるサービスの提供

ソフトウェア業界では API は昔からあり、決して新しいことではありません。では銀行は、このオープンAPIの流れについて、メリットとデメリットをどのように見ているのでしょうか。

 永吉氏は、iBankはテクノロジーの会社でMoneytree LINKと同様に銀行のAPIに接続しに行く立ち位置と説明しながら、どうやって収益を作るか、きちんと議論する必要があると語りました。

「APIありきから議論が始まってしまい、ビジネスモデルについて十分に議論されていない」一方、規制やセキュリティの観点からクローズだった銀行のさまざまな機能は、今後はいろいろな組み合わせによる新しいサービスの可能性を秘めているとメリットを述べました。

五十嵐氏は、「フィンテックと戦うのか協業するのかの議論ではなく、銀行単独でやってきたが、今後は単独ではできない付加価値のついたサービスが他社と組むことで可能になると」とメリットを強調。お客様が求めているサービスを提供するのが本質と述べました。

実際に、同行はMoneytree LINKを自社アプリに導入する際に、お客さまの利便性を考え、自行だけでなく他行のデータも閲覧できるようにしています。また「規制やインフラ整備、そして行内でどうやって決済を取るかがテーマ」と述べ、多くのイベント参加者も共感できるチャレンジが必要な側面も共有してくれました。

 池田泉州銀行の吉岡氏からは、「もともと銀行はインフラであり、安価なサービスを提供することで社会的コストを下げられます。現状は、低金利社会なのに送金手数料は高すぎる。しかし、この送金の値段が下がると日本の生産性も上がるのではないでしょうか」と銀行の公的な役割についても言及しました。

努力をして利便性を上げ、社会コストを下げてきたサービス業は多くあると例に上げながら、銀行もそうあるべきで、その際に銀行のオープンAPIは必須になると述べ、「私企業だけではなく、公的な役割の必要性も追求して行く。その先に私企業としての収益の拡大、顧客の拡大がある」とまとめました。

                                            

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MoneytreeのAPI対応は、データポータビリティの考えから

Moneytree LINK」は、元々は個人資産管理・家計簿アプリ「Moneytree」のデータアグリゲーションの基盤をAPI化したものですが、マネーツリーもはじめからAPIを想定していた訳ではありません。

マクダットは当時を振り返り「当初は企業向けの提供は考えていませんでした。しかし、世の中を見るとデータを共有するニーズがありました。例えば、確定申告する際に、データを手入力するなどです。これが全て電子データとして自動化できたら、生産性に大きく影響しインパクトは大きいと感じました。また、これからの時代は、ユーザーであるお客さま自身の同意、つまりオプトインに基づいて、自由にデータを持ち出すトレンドが来ると考えました」と述べ、「Moneytree LINK」を会計業界を筆頭に多くの金融機関へ提供を開始した経緯を説明しました。

 大変だった事は、SaaS企業としてのAPIモデルの概念を、受け入れてもらうのに苦労したことです。当時の主流は、技術を使う時は技術を買って(リース)して自分のものとして利用する考えでした。つまり Moneytree LINK を OEM として使う要望です。技術そのものではなく、APIで連携させる事で、必要な時にAPIを叩いて使えばいいと説明しましたが、理解が難しかったようです。

今後はフィンテック分野だけでなく、さまざまな企業がAPIを公開しあって面白いサービスを開発する「APIエコノミー」のトレンドが、本格的になって来ます。そう考えると、銀行のオープンAPIの話だけではなく、逆に銀行もどんどん外へ出て行く時代が来るのかもしれません。

そこで、銀行の担当者として、どんなAPIがあればいいと思うか伺ってみました。すると、「政府のデータのAPI」(吉岡氏)「IoT領域のデータが繋がると家計改善の提案にも使える」(五十嵐氏)「銀行ではタブー視されているEC分野ですが、解禁されたら面白いと感じる」(永吉氏)とそれぞれの意見が出て来ました。

各行が、APIエコノミーの活用をどのように頭の中で模索しているのか、その断片が垣間見られたような気がしました。

ペーパレス、オムニチャネル戦略、ローカルエコシステムとさまざまな施策

このオープンAPIの世界では、一層他社との差別化がポイントになってきます。では、それぞれどこに強みを持って特徴を出していこうと考えているのでしょうか。

吉岡氏は、銀行全体のコストを下げ、お客様の利便性をよりよくして行く体力をつけたいとして、ペーパレス施策の意義を強調しました。「スマホでも店舗でも全て同じことができるようにする」(吉岡氏)今まではこの開発にかかるコストは莫大でしたが、APIを利用することで、コストも大幅に下がり環境も整ってきていると解説しました。

一方横浜銀行は、サービスの独自性も大切としながら、サービスの先取りとお客さんの取り込みが重要で差別化していきたいと語りました。例えば、去年からワンオーワンの仕組みを導入しており、サイトで投資信託の商品をみたお客様がスマホのアプリを開くと、投資信託の商品提案が表示されるように、オムニチャネルの戦略を取り入れているそうです。

永吉氏は、iBankを銀行のフロント・エンド・サービスと位置づけ、銀行が結びつかない方々と繋がるローカルエコシステムの構築がコンセプトであると説明。お客さまの興味関心といった、金融商品よりもっと前の潜在的なニーズから発掘していく環境が整いつつあると考え、ここをもっと極めるのが戦略だと述べました。

第2部レポート 「SXSW・WWDCのフィンテックレポ ート サービスの「発音しやすさ」を考えるVUI時代へ」へ続く

マネーツリー編集部

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